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執筆者の写真國定義弘

ティーダフラッグス2020について Part 3

更新日:2022年1月27日

出演:國定、城間


「寄り添う屋根」について


(筆者撮影)


國定 この案も「本部港エントランスルーフ」と同じくCGではシンプルな構造物に見せているけど、ディテールの曖昧さで票を落とした案という印象。特に1次のプレゼンシートを見た時から、屋根の軒天に波打っているCLTを張るのは難しいと思っていて、2次審査の段階でも議題に挙がっていたけど・・・。それこそマウントフジ(mount fuji architect)の「知立の寺子屋」のように部材をもっと小分けにしてカーブを表現しなければいけない。そうするとやはりCGとは全然違うものが出来てしまう。


城間 こういったことが本当に出来るの?という疑問はあったよね。


國定 他のコンペなら特にディテールまで突っ込まれず、ある程度の基本構想のようなもので票が取れることはあるかもしれないけれど、このティーダフラッグスのコンペでは過去のプレゼンで「実施設計で対応します」を多用して審査員に注意された人が何人かいたから、こういった表現はかなり分が悪いと思うな。


城間 このCLTの屋根が、結局のところはファンタジーなのかなって思えてしまう。軒天や屋根の小口がこれだけシンプルな屋根の印象を変えてしまうからこそ、この案が実際とは違う納まりで立ち上がる事が採用する前から判ると、審査員が票を入れづらくなってしまう。


國定 審査員に評価されているポイントとしては、既視感は強い案だけど、シンプルな構成ながらコンセプトに合ったダイナミックで判りやすい形態にするという部分だと思う。


城間 そうだね。あと唯一と言っていいほど木を積極的に使用している案でもあるよね。そこの評価はどうだったのかな。


國定 実際にこの場所でCLTを軒天に使用するのは、耐用年数的にも僕は問題ないように思うけど、やはり不安要素に感じてしまったという点は少なからずあったのではないかな。そこは仲本さんが木を採用した意義をプレゼンでもっとアピールするべきだったと思う。あまりそこの話は議題にすら挙がっていなかったけど。



「Puzzle」について



國定 この案は一番コストパフォーマンスが良いから残った案だと思っている。屋根の軒天を鏡面仕上げにしてその下の空間で楽しい体験が出来るっていう考え自体は新しいことではなく、そういったインスタレーションは世界中にあるし、それらと比べても特殊性は少なく、これをコンセプトとするには物足りなさは感じてしまったのが正直な感想かな。


城間 確かに。僕は形態操作の意図が見えづらい案だと思った。どういった効果を狙って屋根をバラバラにしたのか分らない。例えば各屋根でゾーニングや人の動きを分けるとか、形態操作をすることによる効果っていろいろあるけれど、そのあたりがあまり語られていない。

楽しさの演出と言ってしまえばそうかもしれないけれど、屋根バラバラにした⇒楽しいと本当にそう感じるのか?という疑問は残る。


國定 2次審査のプレゼンを聞いてもフワッとした全体像のイメージしか浮かばなかったんだよね。その理由の1つかもしれないけど、プレゼンシートに平面図がないというのは個人的にはやはり印象が良くないと思うけど、これについてはどう思う?


城間 それは同意見だけど、一方で平面の話がなくても屋根の話だけでも成り立つコンペだったかもしれないなーとは思うよ。


國定 うん、それは確かに。ただ平面図のないレイアウトはある意味建築ではないような気はしていて、要はモニュメントとかインスタレーションと同じ印象のまま終ってしまいがちじゃない?


城間 そうなんだよなー。やっぱ建築の計画をすることは建物がとある環境や状況だったり、周囲との関係性を作るものだと思うし、それを翻訳する作業という意味で平面図は必要だと思う。平面図がないと全体の作業は楽だけどね(笑)


國定 他に評価されているポイントはやはりコストだよね。その部分のプレゼンは分かりやすかったし、説得力もあって予算内に納まりそうだと素直に感じたね。ただ最初に言ったけど、その予算内で作る建築物として、鏡面の体験だけだと案として弱いと思った。つまりかかるコストは低いけど、それによるパフォーマンスも高くない。そういった意味でも上位には挙がるけど40歳以下のコンペとしては1位が取りづらい案だったんじゃないかと思う。



「旅路を見守るサングヮー」について


(筆者撮影)


城間 天久さんの案はどうだった?


國定 サングゥアーフレームの作り方については少し議論したかった。つまりサングゥアーという形をモチーフとして建築の形態に落とし込む時にどこまで離れていてもいいのか?ということ。プレゼンシートの中にダイアグラムがあってその中でも示してあるけど、このサングゥアーの一番大事な意味を持つ「結ぶ」という行為が、建築では構造梁を「重ねる」っていう形態操作に変換されていて、それでもこの大屋根全体が「サングゥアー」としての意味を持っていると言えるのだろうか。そういう意味でこの案のストーリー自体が上手くいってない気はしている。


城間 個人的にはモチーフ自体は何でもいいと思っていて、モチーフから着想を得てスタディを重ねた上で出来たこの案の形はキレイだと思うよ。例えば極論として、モチーフの形をそのまま建築にしろ、っていうのは乱暴な話だよね。要は出来上がった建築物が良いデザインとして詰め切れているかどうか。一つの建築物を構想していく上での秩序としてモチーフを設定することで、デザインを詰めていく筋道をつくった。そういうことではないかなと思う。


國定 なるほど。審査員長の伊礼智さんも言っていたけど、モチーフから建築に落とし込んだ後の何かしらの利点が大事だよね。例えば構造梁を「重ねる」で思考を止めても良いけど、そうすることで構造的に利点があるとか、屋根下に影響が出るとか。そこの話までは必要だったと思う。


城間 確かに、この案はモチーフを建築に落とし込むだけで止まってしまっているね。そのあたりは弱いなあ。


國定 その点はどう思う?個人的にはやはり物足りなさを感じてしまうけど。


城間 あくまでこの案をどう捉えるとするなら、という話だけど、構造フレームがシンプルに重なっているこの形が、視覚的に良い効果を与えている、ということだけでは利点にはならないのかな?

例えば、ファサードのデザインとか視覚的なデザインをしなければならない建築物の場合は成立するよね。


國定 それって商業建築と同じ考えで、表面上のモニュメント的要素が強くなってしまわないか?そういう案が1次審査で多く出てくるのは分るけど…


城間 それじゃダメなのか?という話なのかなぁ。形態操作がその関係する部分に機能的な影響を与えるべきだっていう考えは僕も同意見だけど、、、今回のような屋根コンペだと、人を覆う屋根があればいい、あとはそれがいかに美しいか、みたいな話は、それはそれでありえると思うよ。


國定 あーその解釈が正しいかもね。今回のコンペは屋根のデザインという意味合いが強くて、モチーフを建築に落とし込むだけでも良かった、つまりデザイン性を重視する評価軸があったということかもしれないね。



「ティーダフラッグス2020」に参加して思ったこと


城間 レベルが凄く上がっているよね。この前、第1回目のアンダー40のプレゼンシートを見たけど全然違う。その頃から比べると簡単に2次審査に通りにくくもなっている。


國定 確かにレベルは上がっている。ただ思っていることがあって、偉そうに言わせてもらえるなら、少し全体的に頭打ちになってしまっているんじゃないかなとも感じている。皆の敷地に対する読み解き方や提案レベル、その表現方法が一定のレベルで似通ってしまっている。

2次審査に上がる人と上がれない人との何かしらのレベル差は確実にあるけど、上がる人のレベルも止まっているんじゃないかな。これ位のプレゼンシートで通るでしょっていうノウハウが分かってくるというか。


城間 既視感やコンペのフォーマット感もあるしね。


國定 これはこのコンペが悪いわけでも審査員自体が悪いとも思っていなくて、理由の1つは沖縄で最近あった他のコンペも含めて審査員の顔ぶれがほとんど同じっていう現象の弊害だと感じている。例えば内地では同じコンペでも特別審査員枠を入れて意図的に審査の方向性を変えているし、それが大事だと思うんだよね。なぜなら建築に正解がないから。


城間 審査員やコンペによって通るものと通らないものっていう違いは欲しいってことか。確かに色んな角度の意見は多ければ多いほどいいよね。


國定 一方で、1次審査で落ちた人達のプレゼンシートも全部見たけど、全部に落ちる理由がある。上がらない理由があるから落ちている。多分落ちた人達はあまり学んでいなくて、単純に時間がないからとか思っているんじゃないかな。やはり沖縄で建築的にもっと盛り上がるためには、そこのシーンを底上げする必要があるのではないかと思っている。せっかく全国でも珍しく定期的に若手が競える場があるのに、その価値を最大限に生かせていないというか。


城間 落ちた人の中にも良い発想があるし、自分も含めてそんな人達を2次審査で見てみたいよね。


國定 うん。2次審査に上がっている人の発想が全て素晴らしいわけではないけど、上がり続けている人達はちゃんと上がる理由を考えながら設計していると感じる。ただそれは皆で共有できることだと思うし、そういう人達が増えて沖縄でもっと高いレベルの建築議論が進めば良いと思うし、その中で自分達も成長したい。


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