出演:國定、城間
ティーダフラッグス2020 2020年の年末にて沖縄県主催で行われた県内の若手建築士の育成及び建築技術の向上と発展を図ることを目的とした、40歳以下の建築士(志望者を含む)を対象とした設計競技。今回の設計競技では本部港の一部に施設利用者が荷捌き、貨物の引取・一時的な保管及び待機を天候に左右されず安全・快適に行うことのできる屋根付き利便施設の設計。
両出演者は1案ずつ提出し、1次審査にて落選。
城間 今回のティーダフラッグス2020について…結果は惨敗だったんですけど(笑)。
國定 1次審査で負けてしまいましたね(笑)。コンペの全体的な印象としては荷解き場というビルディングタイプの性質上、やはり屋根のデザインに終始話が集まっていたね。だからなのか、提出された全ての案を拝見したけれど、個人的には読みごたえのある案は少なかった様に思う。結局のところ建築的機能が無いコンペだから平面図が薄くならざるをえないし、屋根の作り方や見せ方、コストがメインの勝負処になっていたという印象。
城間 基本屋根形状や、柱形状の操作が主な建築提案であって、その屋根の下での過ごし方まで提案したものは少ないかもしれない。コンペで設定されたもの以上のものはなかったかも。
國定 平面的機能の話をするとすれば、コンテナを置く場所と人が集まる所の区分けをどうするのか、というのは1つのポイントだったでしょう。
城間 コンテナ動線と人の動線については、やっぱり安全性に少しでも影響がある案は 1 次審査で落とされていたんじゃないかな。
國定 これに関して色んなことを考えていくと、コンテナの置き場所は海のある北側1面に並列で並べるのが良いのではないかと思っている。ポイントとしては、フォークリフトの動線と人の動線が交わらないように配置を設定できているかどうか。フォークリフトの作業員の利便性を考慮すると、駐車場がある西側までフォークリフトが一々回りこんでコンテナを置くのはどうなのかと思う。船からのフォークリフトの動きを最小限にできるし、旅客の集まる場所もフォークリフト動線に重ならないような配置になるしね。
城間 本来ならこういった港湾施設では、コンテナの積み下ろしの時間と、人の移動の時間をずらすなど、時間管理などで動線が交わらないようにする対応はどこでもやっていることだと思うんですよね。例えば飛行機とかに乗る際も整備や荷物の積み込み時間が全部終わった後に人を機内案内するじゃないですか。ただ、そういうシステムだとしても、港湾施設の管理方法という部分はコンペ時には管理者と調整できることではなく、不確定要素ににしかならない。そうした不確定要素が少しでもある案はほとんど落ちているんじゃないかな。完全に二つの導線を分けるっていう前程があった気はしている。
國定 コンテナの話は質疑応答でも少し多かったよね。例えば「このコンテナの置き方は問題ないですか?」っていう質問を漁港管理者に聞いたりだとか。
城間 天久さんの案の時だったかな。このプランは人がいるスペースにコンテナが入り込んでいる様な形だから。僕も個人的にはこの配置でもまあ管理で人とコンテナの動きを整理すれば成立するよなと思っていたし、実は、僕も人とコンテナが交差する案をコンペでも提出したんだけど。けど実際に審査員の発言を聞く限りは多分そうじゃない。やはりコンテナが移動するということに対する安全性は確実に担保するべき項目だった。
國定 フォークリフトの運転手からしたらこの大きさのコンテナを運ぶのは少し気を使うと思う。実際にフォークリフトで一度コンテナを上に上げて視界を確保してから移動するわけだから理論的には大丈夫なんだろうけど、運転する心象としては怖さがあるよね。これは見逃せないポイントだったね。更に言うなら、コンテナ置き場を狭く囲ってある案は印象が良くなかったんじゃないかな。つまり、コンテナの寸歩がこうだから、置き場をこれだけ確保すれば良いでしょ?というような必要最低限の安全性しか確保していない案は軒並み落選している。やはりコンテナ置き場に余裕のある設計がベターな方向だったね。
城間 安全性を担保するのは今までのティーダフラッグスでも重要視されているポイントで、ここが足りない案は評価を落としている印象だね。
國定 でもこれは、しょうがないものとして僕は捉えていて、審査員からしたら安全性の担保がない案は怖いポイントでしかない。要は自分が選んだ案で誰かが怪我をするかもしれないというリスクは負えない訳だし、怪我をする直接的な理由にならない様に設計したものでないと選べないというのは当然といえば当然だよね。
城間 今回のアンダー40のようなコンペに提出する意識として、選ぶ側のリスクになる要素がある案では戦わない方がいいと思った。斜に構えて管理の問題でしょ、大丈夫でしょ、って言ったところで、個人的に思っているだけでは意味がない。審査員の考え方を変えるような案を作ればいいでしょと思ったところで、どこまで通用するか未知数なものを提案するリスクもある。今後のコンペでも安全性の担保という部分は最低条件といて見られるポイントになるだろうね。
國定 そうだね。今回僕が想定していたよりも重要視されていたもう1つのポイントは、南側に隣接する既存の待合所から海への見通しの確保。これは意外だった。というかこの部分で僕の案は落選したと思っている(笑)。2次審査に上がった案は全部見通しが良いし、逆に待合所からの見通しを遮る代わりに敷地内で面白い体験が出来る案は落選している。
城間 そうかもしれないね。
國定: でもこれに関しては、僕は未だに懐疑的な立場で、『そこに存在する価値を出来るだけ損なわない様に建築は建てるべき』だという考えを押し付けられている気がするんだよね。その行為は確かに批判が少ないと思う。でも何というか、そこにある価値を書き換えるような、これから建つ建築が生む、新しい価値を探求する可能性もあると思うんだ。だから視線を遮るような計画であっても、『施設内で素敵な体験ができる案』や、『新たなこの土地の価値を気づかせてくれる様な案』が、2次審査にもっと通っても良かったと思う。この僕の考えは間違っていないと思うけど、でも逆を言えば、『この風景を出来るだけ残したい』と思う審査員の気持ちを汲み取れなかったっていうのが敗因だったのかもね。読みが外れたという感じ。
「MOTOBU Coral Roof」について

(筆者撮影)
城間 今回の1位の案「MOTOBU Coral Roof」についてはどう思った?
國定 この案の機能的な懐の大きさは確かに魅力だよね。
城間 こんなに大屋根だと凄く迫力もあるし、気持ち良いだろうね。真ん中に太い柱があったとしてもキャンチレバーで7.5mずつとばしてる。
國定 確かにね。ちょっと疑問に思った点は、真ん中に大屋根が1枚とそれに取り付く様に2枚の小屋根の構成の建築物だけど、小屋根の方は屋根の中心に柱が落ちてないよね。これは何でなんだろう。大屋根と同じく屋根の真ん中に柱を落として構成を統一した方が綺麗じゃない?
城間 柱を屋根の中央ではなく、少しズラしたところに設定することで、ある程度まとまった面積を確保出来ると思う。人の導線の確保や駐車場利用も想定して、このほうが平面的にいろんな利用ができると思う。あと、デザインのモチーフとしているテーブルサンゴもそういう少し歪な形をしているから、デザインとして見るならアリじゃないかな。
國定 なるほど、デザイン的にモチーフに寄せつつ機能面でも有利な方にしたということか。他には、屋根の収まりについては審査員も多く質問していたけど、やはり不安な点だと思う。
※後で案を読み返すと、2つの屋根の柱を大屋根と構造的に連結するためにも柱の位置をズラしていることがわかった。
城間 ちょっと最後まで見通しは立ってなかったね。
國定 これって、詳細図とプレゼンテーションを聞く限り、RCの屋根にVP管を挿したまま打ち込んで穴が空いた屋根を作って、その上に軽鉄を組んで更にその上に透明な波板材を乗せるっていう収まりでしょ?それで雨を防ぐと。ちょっと分かりにくかったけど。
城間 波板にゴミが溜まって、それがフェリーから見えた時に汚くない?という質問が審査員から出ていたね。
國定 メンテナンスが頻繁に必要になりそうだよね。それにRCパラペットとの取り合いが難しいし、穴から雨水が漏れる心配はどうしても考えてしまう部分だね。この案に対する審査員の質問は正しかったと思う。でも、この案を最終的に審査員が1位に押したのはRCだったっていうのが大きかったのではないかな。
城間 それはどういう理由で?鉄骨の案が並ぶ中ではってこと?
國定 うん。海のすぐ近くだからRC造の方が塩害などの耐候性の心配が少ないし、コスト管理も問題なさそうだしね。そういう意味では1番この案は心配事が少なかったんじゃないかな?これが出来るかどうかは構造家と組んでいることで担保しているしね。本当に心配事は屋根の納まりだけで。実際にこの建築で出来る空間が綺麗かは分からないけど…。レイアウトで他の建築物の写真を引用しているけど、この通りにはならないし、このやり方は印象が良くないと僕は思う。あまり好きじゃないやり方(笑)。でも、個人的にはこの建築物が出来たら見に行きたいと思う。
城間 そうだね。1番この案がコンセプチュアルだと思う。モチーフのテーブルサンゴから形態や機能への作り方が分かりやすい。
國定 うん確かに。あと、割り切り方が上手いと思った。このコンペってどれだけ柱を少なくして空間を確保するかが重要なポイントだと思うけど、それに対してこの案は柱を3本だけにして広い空間をどうとでも利用してください。という考えでしょ。ここまで割り切った方が今回は良かったのかな。
Part 2に続く
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