ティーダフラッグス2024について Part 1
- kuniyoshi99992222
- 5月6日
- 読了時間: 24分
更新日:5月16日
出演:國定、城間、二階堂
※ティーダフラッグス2024コンペ概要
奥武山公園内にある「奥武山公園庭球場管理棟」を対象とした改修及び増築の計画。テニスの大会運営などによく利用されている本施設は、今後国民体育大会などで利用される予定があり、既存トイレや更衣室等の改修に加え、救護室、観覧席などの機能拡充が必要となっております。そんな施設の改修・増築の設計について、沖縄の40歳以下の若手建築士(志望者も含む)を対象とした設計競技が行われました。
最終審査結果は下記URLより
応募要項の詳細は下記URLより
城間:先日國定君が金賞を取りましたティーダフラックス2024年について、今回は二階堂さん(一級建築士事務所 二階堂)をゲストに迎えまして、この3人でコンペについて色々なことを話し合いたいと思います。よろしくお願いします。
國定:「べしゃラボ」について少し説明しますと、ティーダフラッグス2020の記事から間が空いてしまいましたが、また少しずつUPしていきたいと思っています。そもそもの始まりは、コンペ全体や各賞の作品について良かったところ悪かったところなどをそれぞれの目線で議論し、それをキチンとしたブログ形式で残すことを目的としていて、これによって若手の自由な議論を促すことが沖縄建築にとってのより良くなるのではと考えております。今日はよろしくお願いします。
二階堂:よろしくお願いします。
城間:まず前情報として、3人のコンペ結果について説明しますと、僕が一次審査で落選、二階堂さんが二次審査で落選し、國定君が最終審査を勝ち上がり金賞受賞という結果です。
國定:城間君は二次審査以降を見られなかったんだよね?
城間:はい。僕は仕事で審査会を見られなかったので、いま沖縄県のホームペジにアップされているプレゼンシートしかわからない状態です。二階堂さんは体調が悪かったという話は聞いているんですけど・・・。
二階堂:うん、風邪をひいていて、開始前に飲んだ解熱剤が悪さをしたっていう感じかな(笑)
國定:待ち時間も体調悪そうで、二次審査の質疑応答中に倒れて裏で寝ていましたよね。結局最後まで審査会を見られたのは(この三人では)僕だけです。
金賞「エールの広がるテニスコート」
(studio jag一級建築士事務所:國定、下地)


城間:では、金賞の國定君の案から順にやっていきます。案の説明をお願いします。
國定:はい。「エールの広がるテニスコート」という題名で提案させていただきました。まず重要視した部分は、テニスコートにある観客席を案の軸にし、テニスからなる発想やコンセプトを生み出そうとしたことです。そこで、テニスの行動や行為から着想を得て、ポジティブなイメージの翼をモチーフとした増築部分の屋根が、既存施設から両方の空に向かって広がるようなイメージを計画し、それがテニスコートだけでなく奥武山公園全体へのメッセージとなる建物を提案しました。配置計画としては、既設の管理棟の東西の両方向に増築部分を広げるのが一番使いやすいと思い、増築部分のボリュームを2分割して、観客席が左右対称に見えるよう配置しています。屋根の形や様々な角度からの見え方は一番スタディしたポイントでして、下から見上げた時や正面や背面など色んなパターンを検討してシンプルさを損なわないようにデザインしています。機能的な部分でいうと、車椅子テニスを想定し、身障者でも2階に上がれるようスロープを設置したり、既存管理棟の2階会議室の(大会等で試合会場のメインとなる)北側に、立見席にもなるテラスを設けるなど、2階部分で東西の端から端に行き来できるようにすることで、1階よりも2階の利用を促すよう計画しました。あとは予算上、余裕がある改修工事ではないのを概算で確認していましたので、細かいデザインを突き詰めるよりも、翼をモチーフにした大きくシンプルな屋根が全体を柔らかく包むようなイメージをしっかり共有する方が、今回のコンペは理解されやすいのではないかと考えながらプレゼンテーションをまとめました。以上です。
城間:説明ありがとうございました。審査会当日の状況を教えていただきたいです。審査員からはどんな質疑がありましたか?
國定:まずスロープや2階部分に人を上げるっていうことについて質疑がありました。やはりバリアフリーに関する部分は、審査員が特に気にしていたポイントだったと思う。これについては僕の狙い通りで良かった点かなと思います。あとは屋根の実現性についてと会議室の利用についての質疑があったね。
城間:他には?
國定:会議室北側の、庇を拡張する形で計画したテラスに関しては、結構好意的に受け取られたのかなっていう印象があります。まあ僕の案だけじゃなくて、皆さん結構近い考えを提案されているので、こういった北側に対して立見が出来るなり、座れるなりのちゃんとしたスペースを確保するっていうのが、やっぱりより良いだろうという審査員の共通認識があったかなと思う。質疑はそれくらいだったかな。
城間:なるほど。二階堂さんはこの案にどう思いましたか?
二階堂:そうだね。この案が一次審査通過した中で一番通りやすいだろうなと思ったね。まず、既存管理棟の両サイドを観客席として配置するのが一番オーソドックスな案だし、要項に対する回答としてもベターだろうなと。後は例年の案を見ていると、やっぱり何かモチーフのある形というのが通り易いとは感じています。
國定:ティーダフラッグス自体にその傾向は強いですよね。
二階堂:だから、二次審査で波乱がなければ一番有力な案だろうなっていう気はしていましたし、何より欠点の少なさっていうのも感じますね。
城間:そうですね。
二階堂:審査員がコンペとして変化を求めなければ、この案が金賞になるだろうなっていう感じはしていました。
國定:はい。良くも悪くも異論ありません。
城間:そうですよね。要は國定くんの作品は、例年常にまずバランスが良いと感じますよね。
二階堂:うん。
城間:基本的にそつなくミスなくで、今回の案で言うと、身障者に対しての配慮がしっかりされているし、あと回遊性ではないけれど左右の行き来もちゃんと意識されている。改修の内容を見ても無理があるようには見えないし、屋根も無理な構造しているわけでもない。形自体も既存施設に「翼を授ける」位のちょっとライトなものであって、この「ちょっと色を付けている」って感じがすごくいいよね。
國定:うん。だから審査員にも最初から良い印象を持ってもらっているのかなとは感じていました。やっぱり審査員のイメージに近かったんだなと。
二階堂:コンペの回答としては真正面から解いている感じがする。
國定:そうですね。でも1回目の質疑では少し時間が余ってしまったので、負けたかなと不安になりましたけどね。
二階堂:そうなの?でも質疑が少ないってことは、一次審査の時点で評価が高ければ全然マイナスじゃないと思うよ。逆に一次審査の時に評価が低くても質疑がいっぱい出て、それでうまく返せば、逆転の可能性はあるかとは思うけど。だから一次審査の結果が良かったってことで、疑問の少ない案だったということじゃないかな。
國定:確かに。でも当人は投票が開くまで全くわかりませんからね。
城間:さっき二階堂さんが言っていたモチーフのある形が審査を通り易いという話がありました。それについて、おそらく他の案にも多分モチーフとなるものあったとは思いますが、今回の國定君の案の方が、おそらくより良かったのだろうと思うんです。この「モチーフとコンセプト」がコンペのテーマにポジティブな意味を与えてくれると言いますか、ティーダフラッグスというある種のお祭りの中で、一つの記念になりそうな印象をもっていると思います。「モチーフとコンセプト」がコンペのテーマに上手くリンクしているって感じかな。
國定:モチーフ自体はやっぱり何でもいいと思うんですけど、その形にしたことでの利点っていうところに結びつけている案が強くなると思う。モチーフの「ある形」から派生して、「機能性」や「視覚的」に意味が追加出来るのなら、単に機能的な案よりかは審査員の記憶にも残り易いのかなとは感じています。
二階堂:それについては、このコンペを“取りにいく”かどいうかに関わってくる話かなと思う。僕自身はモチーフを主軸に用いるのとは、距離を取りたいなっていうのはあります。それが勝ち易いっていうのは勿論わかった上で。
國定:はい。その気持ちも良く分かります。
二階堂:モチーフから何かしらの機能を結びつけていくよりかは、新たなものを作りたいっていう思いがあって、そういった既存のイメージが結びつくモチーフを前面には押し出したくないなっていうのはあります。ただ、そのコンペに勝つためにはモチーフがあった方が共感を得やすいっていうのはすごいよくわかる話なんだけど、コンペに勝つことだけにこだわって取り組むのか、それとも、(新しい建築の提示など)別の目的を持って取り組むかによって、そこの作り方は変わってくるのかなと。
城間:僕はそのモチーフが必要かどうかっていうよりかは、その作品がコンペの記念になりえるかどうか、というのが大事なのではないかと考えております。ちょっと言い方が難しくて、僕としても「記念」っていう言葉がジャストフィットしているかも疑問はある中で言葉にしてみますと、(審査員側の気持ちとして、)せっかく選ぶからには、コンペで選ばれるに値するなにかを評価したいという気持ちがあるんじゃないかと。
國定:記念碑的要素が少なからず結果に影響するってこと?
城間:そのコンペを象徴するものを何かしら持っている、という方がより近い表現なのかな。そういう性質が何かしらあってほしいと審査員は思っているんじゃないかなって。これに対しては、確かにモチーフを用いることは記号的で、視覚に一番分かり易いんだけれども、それ以外の方法っていうものも模索して提案したいですよね。
二階堂:なるほど。
國定:2人の今の意見はどちらも納得できる話です。一方でモチーフを手法と用いた身としては、今回の既存施設の増改築っていうものに対しての手法としては、割とマッチしていたのかなって思ったりもします。ゼロからの新築にモチーフを用いると建物全体に「記念碑」的な意味合いがどうしても強くなるけど、既存施設の増築に用いると、丁度良い塩梅のイメージを新たに付け加え易くなるというか、そこを理解してもらうための説明が多くできたなっていう印象です。なので、そういった部分が今回は上手くはまったなっていう感じはしています。
城間:國定の最近の案では珍しく、形に少し意味を付け加える手法だよね。例年のティーダフラッグスでは機能主義みたいな案が多かったけど。
國定:まあそっちの方が手法としては好みだからね。去年のティーダフラッグスも必要な機能がそのまま建物の形になるっていう案で勝負したけどかなり自信あったし。最終結果4位でしたけど。
二階堂:確かに。去年のティーダフラッグスの1位も記念碑的要素があったり、イメージモチーフがあるような形だったね。逆に國定の案はモチーフではなくて共有できるイメージから作られている提案じゃなかった。
國定:そこに自身と審査員の評価とのギャップはやはり感じていますね。難しいポイントです。
二階堂:うん。だからといって勝つための方向に寄ってしまっていいのか、それこそお笑いの「M-1グランプリ」みたいに競技化した漫才みたいに先鋭化した形になっていいのかっていうもう話は考えたいよね。
城間:はいはい、それはありますね(笑)。
二階堂:かといって地下芸人のように売れなくて良いのかって。
城間:一発も当ててない、だけどなんか芸人たちだけから、なぜか評価を得ているみたいな?
二階堂:観客にはウケなくて、舞台袖に向かってやっているみたいなね。それはそれで問題あると思うし。
國定:そうですね(笑)。やっぱりこのコンペ自体に対する自分なりのちょうどいいバランスというか、利用しつつもある程度の距離感を保ってやっていく必要もあると思いますね。
城間:うん。大事なことだね。
國定:あと、コンペにおいて、審査員が何を望んでいて皆がどういった提案をするだろうなって読みは結構やっているし、さらにその読みに対する自分の案の立ち位置っていうのも気にしながら設計しています。
二階堂:うん。僕もかなり気にしている方だね。
國定:あくまでティーダフラッグスの審査全般に関しての僕の考えは、審査員が望んでいる本命みたいな案があったとしたら、その本筋ごとズラすことはせずに、少しズラした案が印象良いだろうなと思っています。案が合理的過ぎるとつまらないけど、そこから外れ過ぎると二次審査以降では点が入りにくい。
二階堂:うん。やっぱり勝つ(金賞)には王道だし、残る(二次審査進出しやすい)のは邪道というか。
國定:そうですね。選んでもらうってことを考えるなら邪道を狙うのも間違ってはいないと思いますけど・・・
二階堂:うん。でも結局勝つのは王道で、実施コンペっていうのもあって邪道が王道を超えるぐらいの誰も気づかなかった案であれば、勝つ可能性はあるけど、ほとんどの場合そこまでの案の深さは出せていない。
城間:うん、そうですね。
國定:邪道でチャレンジしたい気持ちもあるけど、結局審査員はそういう結果を選ぶし、一次の段階で落ちる確率が高くなりますからね。何にしろそういった案の立ち位置というか見られ方は毎年気にしますし、まだ模索中で難しい部分ですね。
銀賞「抜け感のプロムナード」
(株式会社 国建:真栄田、伊波、玉那覇)
城間:銀賞の案の解説は二次審査も見ている國定君にお願いします。軽めで。
國定:既設の管理棟2階の会議室を基本的に屋外として開放することで広い休憩所にし、テニスの観客だけじゃなく、近くの奥武山公園駅から歩いて帰る人の通り道の一つにしようという案です。2階備え付けの倉庫に入っている間仕切りを展開することで、時には会議室としても利用できます。そこに至るまでの増築の観客席やスロープには仕掛けとして「watch look see」という3つの異なるテニスコートとの距離の取り方や、沖縄らしい「抜けきらない」空間を構成原理として施設全体を計画しています。
城間:はい概要はわかりました。この案について会場ではどんな反応でしたか?
國定:僕は最初この案を見た時に、会議室を屋外として開放するっていうことの懸念が多そうで難しいかな、と思っていたけど、二次審査に上がってみると意外とすんなり受け入れられていたね。特に審査員の一人として入っていた施設管理人が普段の利用者の少なさに言及もあったよ。ただ、それ自体には批判的な意見はなかったけど、実際の使い方の話に質疑が集まってしまって、実施レベルとしては少し不安感を抱かせてしまったかもしれない。もっと細かい部分の説明もできた方が良かったと思う。
城間:なるほど。その辺の話が管理人側から好意的な意見が出るっていうのはなんか面白いね。
國定:最終的にはこの案に管理人からの票も入っているしね。
二階堂:思っていた以上に会議室が使われていないっていうことだね。現状としてこの場所での会議が少ないのかもしれない。
國定:実際にここで会議室を利用する場合、ほとんどテニス関係ってことになってしまうので、設計者目線でもやっぱりそれだけではという思いもあったのかな。言い換えれば今よりも利用されて親しみ易い建物になってほしいという。
二階堂:うん、あったと思うよ。
國定:確かにそういう考え方もあるよねとは思いましたね。
城間:二階堂さんはどう思いましたか?
二階堂:最初見た印象としては、全体的な構成は國定君の案と同じだけど、キャッチーなイメージがあるかどうかの違いを感じたね。あとは沖縄の昔からの住宅の言語というか、例えばヒンプンとかの沖縄建築の要素を使ってデザインしている。これは戦略的にやっている感じはあって、そういう沖縄的なイメージに票が入るのか、それとも國定のモチーフに票が入るか、どっちかなっていう感じで。ただ、全体的なやっていることの方向性は國定案も国建案も同じというイメージだったね。
國定:確かに構成に関しては他の案よりも似通っていますね。
城間:僕が思ったのは、会議室空間をオープンに開放させることで、建物の一部を公園化しようとしたことが一番のポイントだと思います。それをプロムナードっていう言葉で表現しているところが、今振り返るとなるほどと思う気持ちもある。というのも、最近東京の「宮下パーク」や「ハラカド」「オモカド」に訪れる機会があったのですが、渋谷周辺の建物の屋上を開放して、オープンエアな公園をつくる考えに近いことを、彼らはしたかったのかなと思いました。
國定:なるほど。今の話も含めて、建物の一部をプロムナード(遊歩道)にするっていう考え自体は有りだなと思ったけど、この案の良くない点は、そこに至るまでに分かりづらい余計な話が多いと感じてしまうことかな。極論するなら「watch look see」とか沖縄らしい「抜けきらない」空間とかの、どこを指していてどういう効果があるのか最後までわからなかった要素を省いてしまった方が良かったのかなって。オープンな会議室を軸としてもっと抽象化した方が魅力的に映ったかもしれない。審査員がその部分を最後まで飲み込みきれなかった感はあると思う。
二階堂:僕はそこに関しては、この案は建築物の使い方の提案が大部分を占めていると思っていて、全体の建築物としてどういった新しい空間になるかといった提案は少ないのかなと感じました。「使い方の建築」を提案している。
國定:なるほど。そこも重要なポイントですね。
二階堂:言い換えると、こういう使い方が良いよねっていうことで評価されていると思うけど、建築物としてのオリジナリティとかそういう強さがある提案にはなれていないと感じてしまう。例えば両サイドの屋根にしても、どういうディテールにするかとか、どういう良い空間になるかっていう説明は文字ではほとんど説明されていない。なぜこういう柱で、このピッチで、なぜフラットな形の屋根なのかとかに対する説明が少ないし、逆にプロムナードとは関係ない「ヒンプン」の話とかはあったりして、そこにコンペのテクニックとして要素を入れ込んでいるというあざとさを感じてしまうというか。
城間:まあ、オリジナリティあるデザインの提案はないっていうのは少し分かりますね。さっき「宮下パーク」の話を出したんですけど、あそこは一貫して「公園」であることを前提とした、ラフな公園のディテールで全部デザインしているんですよね。スチールパイプやワイヤーメッシュ、コンクリートの平版とかの割とよく見る公園にあるマテリアルで構成していて、綺麗過ぎない少しラフな造りの気軽な空間としてデザインされている。(10代~20代前半の渋谷の若者がわちゃわちゃ集まるイメージ)
二階堂:うんうん。
城間:一方で、「オモカド」はきれいなウッドデッキが敷かれ、ガラス手すりやステンレスフレーム、壁面タイルなどが構成要素になっていて、都市の屋上にすごく綺麗に整えられた公園がつくられている。(余裕のある大人が表参道デートするイメージ)例えばそういったテーマ性というか、どういうシチュエーションのあるプロムナードにするか、まで踏み込んで提案できたらもっと深くて良い案になっていたかもしれない。
國定:あぁなるほど。そういったテーマ性は確かに弱いね。休憩所に向かうまでのストーリーも含めてどういった休憩ができるかがイメージしづらい。
城間:使われ方だけじゃなくて、デザインとしても詰めていくことができたらもっと良かったね。そこら辺をもっと洗練できていたら、國定案のモチーフ型とは違った形で、コンペを代表する記念性を帯びていたかもしれないなと思います。
國定:あったと思うよ。でもやっぱり余計な部分を省けていないし、詰めるべきところを詰めきれていなかったのが最大の敗因だと思う。話を振り返るようだけど「watch look see」に関しても普通の観客席の設計とは何が違ってどう良いのかがあるのならもっと丁寧に説明するべきだし、そもそもこの手法がこの案に合っているのかが審査員も最後まで判断できなかったと思う。そういった何となくモヤモヤする感覚を案の要所から感じてしまったのかもしれない。
二階堂:そうだね。造り方の本質はついていないというか、全体的にこんな風につくりますっていう提案しかなされていないというか、建築物のデザインがされているようでされていないように感じてしまう。やっぱりどういうものをつくるかっていう提案が少ないと感じるし、全体的に雰囲気の建築だなっていう印象を持ってしまった。
城間:まぁその雰囲気に関しては、やっぱり絵というか見せ方は上手いし一目見て綺麗だと思いますよね。ある意味それで誤魔化しているとも言えるかもしれませんが。
二階堂:もしも僕が審査員なら、プレゼンには呼んでみたい。そしてプレゼンを聞いてもっと内容を細かく聞き出したい案かなと思いますね。プレゼンシートの中では、戦略的にオープンな休憩所っていう使われ方にフィーチャーしてやったのか、あえて細かい建築物の話を省いたのか、それとも初めからそこは全くなかったのか。それによって評価はかなり変わってくると思いますね。
國定:いや、質疑の感じだと前者寄りだったと思います。そこでやっぱり勝ち切れなかった最後のパワーの無さが出た感じですかね。
銅賞「未来への翼の建築」
(株式会社 FAD一級建築士事務所:古堅)
國定:案の考え方自体は凄くオーソドックスで、既存施設から敷地の東西に観客席と休憩所が増築されていて、2階部分の観客席はピラミッド型(提案ではジッグラト型スタンド)で大きな段々になっていて、その下は広い影空間である休憩所が、さらにその延長上には階段を設置しているというシンプルな配置計画です。大きな増築屋根はスタンドの最上段から斜めの鉄骨柱で支えていて、既存の屋根と一続きに見えるようにイメージパースを作っています。2階の会議室は他の案と同じように掃き出し窓に改修して、そこに試合観戦用のベンチを設置しています。
城間:この案はどう思った?
國定:僕の案と構成や方向性が似ていると思ったし、タイトルに同じ「翼」って入っているからちょっと意識していましたね。内容で言うとパースや断面ダイアグラムから分かるようにシンプルで分かり易いからこそ、他には何もしませんっていうような強さがあった案かなと。このシンプルさで一次審査を通ったってことは、審査員のイメージに一番近いってことで結構気に入られているのかなと思って、ある意味怖い案でした。
二階堂:観客席の考え方としては真正面から解いている感じがするよね。
國定:うん。その辺りで点が入る案だったと思う。でも、やっぱり所々でまだ甘さが見えますね。第一にタイトルに「翼」を使わなくて良かったんじゃない?と思うし、もっと良い言い方なり、もっともっと分かり易さで勝負しても良かった。
二階堂:そうだね。タイトルは突発的で、観客席のジッグラト型スタンドなどのワードとも一貫した意味を持っていないと言うか。だから要望に対しては正面から解いているけど、この建築物単体としては提案に掴みどころがない。翼の説明もあまり無いし。
城間:確かに。
國定:構成だけで言うなら理解させ易くて、不明な箇所が少ないですけど逆を言えば引っ掛かりが少ない。厳しい言い方をするならテニス観客場としてはそれっぽいのを出してきたなと言うか、ザ・テニスコートをつくりますって言っているような。
二階堂:設計者とか建築家としてのアイデンティティが見えづらい感じはある。
國定:設計資料集の標準に近いものを感じる。必ずしもそれが悪いとは言えないと思うけど。
二階堂:唯一設計者らしい提案しているのが、この2階鉄骨柱の屋根の持たせ方だけど、オリジナリティであるというか、絶対こうしないといけないって言う意思までは見えないよね。そこも含めてやっぱり要望がこうなっているのでこうつくりますって言う感じが否めない。
國定:この設計者ならではっていう特別感はほぼ感じられないですよね。最終的にこの案が勝ち切れなかったポイントだと思いますけど、ある程度の合格点は取れるけどそれ以上の加点ポイントは厳しいと言うか、既存の建築物とは違う何かってものが最終的な強みに繋がると思う。
二階堂:そうだね。それに両サイドのジッグラト状の段々の観客席が特にそうだけど、甘いと思う部分として線の密度(ディテールの表現)が薄いと感じる。この提案の大事な部分だからもっと際立てせるべきというか。
國定:そうですね。それで言えば、既存管理棟の改修の方向性の話をトピックとしてあまり出してないっていうのも悪い箇所だと思います。会議室前にベンチって書いてあるけど、文言で書いているだけじゃなくて他との関係性なりをもう少し丁寧に説明した方が良い。今回は特に増改築なので。
二階堂:うんうん。
國定:まぁでも、より機能的で合理的性を求めるならこういう提案になるだろうと思うし、単純にテニスコートの利用者や観客からすると、嬉しいこといっぱいあるだろうって感じはするんですよ。例えば1階の軒下もオープンな影空間が設置されていて普通に嬉しいだろうし、2階も広々として数も多く受け入れできる。やっぱり合理性みたいなものを追い求めて、より無機質になっちゃったって感じかもしれませんね。
二階堂:そうだね。ただそういう提案にするなら逆に何のモチーフも作らないというか、アノニマスっていうことを前面に押し出してスーパーノーマルなものをあえて提案しますっていうプレゼンの方が良かったかもしれない。
國定:そういった潔さがあった方がより強い案と言うことですね。無機質なレイアウトにしたり、やりたい箇所だけを詳細に設計して、他は薄くするとか。
二階堂:うん。スーパーノーマルを造るっていうのは、例えば新しいのか古いのか、いつからあったのか、それすら分からないとかね。当たり前にそこにあるぐらいの感じのデザインまで持っていけたらいいのかなと思う。ただやっぱりそういう提案までは出来ていない気がする。
國定:確かに。やっぱり案の方向性自体は一理あると思うし、惜しさを感じる案ですよね。城間君はどう感じた?
城間:プランのつくり方とかは、少し自分の案に似たところがあるんですが、基本的には今までの2人と同じ意見で、要望に対して素直に回答しているという印象です。ただ、最終審査で第4位以内に入るにしては、案が少し普通すぎるような気もしていてそれで良いのか?っていう疑問はあります。
二階堂:素直さというか真摯さというかは評価された部分だと思うよ。建築物としても象徴的にも見えるし、公共事業としても造るインパクトがある。
城間:確かにそれはわかります。でも逆を言えば本当に素直に提案すればとりあえず最終審査に残るって感じがやはりモヤモヤしてしまいます。あと改修方法をもう少し知りたいなっていうところで、本当に可能なのか怪しくは見えますけど。特に既存の屋根と増築屋根をデザイン的に綺麗に繋げられるのか。
國定:そこは質疑でも突っ込まれていたよ。屋根を延長しているようにイメージパースやコンセプトで書いているけど、実際は難しいんじゃないかって。それに対しの詳細は覚えていないけど、完全に良い回答をしたって印象はないなぁ。
城間:うん。改修工事とか、増改築の経験したことある人は多分同じ意見じゃないかなと思いますね。どんな工法でどんなディテールを考えていくのかっていうのは、リアリティが見えないって感じですね。実際に同じようにはならないでしょうって言いたくなってしまう。
國定:確かにね。ただ余計なことをしてないシンプルな案だからこそ、具体的な懸念点が目立ってしまうっていうのはあるよね。実施レベルとしては気になるのは屋根位だと思うし。
二階堂:そこ以外の技術的な懸念点がなさそうっていう安心感はあるよね。
城間:そうですね。第2位の「抜け感のプロムナード」と比べて管理・運営上の怪しさが少ないと思うし。あとは、この案だけじゃないですけどスロープを設置していないってことに対して、要望通りの本来だったら設置しないが正しいというか、そういう意味では本当に余計なことをしていない。裏を返せば物足りなさを感じてしまう案でもあるというか。
國定:そうだねえ。
城間:一番ベーシックに要望を解いたらこうなるっていう感じですかね。
二階堂:だからこそ批判する部分がコスト面とか工法になってしまうっていう。
國定:何かしらでその設計者や建築家独自の要素を多かれ少なかれ入れて欲しいっていう思いは審査員側にもやっぱりあるはずだと思うし、オーソドックスでいくなら「+α」のオリジナリティが争点になる。そう言う意味でもこの案は審査員のド真ん中のオーソドックス過ぎて逆に推し辛かったのかなって印象です。
二階堂:うんその通りだと思うよ。
<Part 2に続く>



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